2024/01/08月

スポーツ紙読み比べ。今日はスポニチだ。近所のセブイレの新聞スタンドの上から順に買ってる。

白髪のおっさんもスポーツ紙買ってた。ここは工場地帯そばの貧民窟。○○マンションを自称する時代遅れのアパートは、外壁がチョコケーキのように崩れ、骨組みが丸見えになっている。傷みをブルーシートで隠蔽し、補強し、装丁する。そこに平気で人が住む。ここには朝から日経新聞を求めるような高級な御仁はおらん。今から梅田のポートピア、ウインズといった場外発売場に向かいま、というような輩ばかりである。月曜になると決まって空き缶を集める連中が出没する。自転車にお手製の荷台をこさえて、集めた缶を山と積む。線路そばのどんつきでは、地べたに座って空き缶をつぶすジジイが、等間隔に並ぶ。

スポーツ紙によくある広告。ムラムラした未亡人があなたとの出会いを待ってるというもの。繁華街の自販機裏にも貼ってある。永久機関は実在した! 性欲と金欲を同時に満たす、エネルギーの法則を無視した夢の発明だ。それはさておき、紙面に凄十の広告が載る。凄十とは、中年のレッドブルみたいなもので、精力剤と謳わない精力剤である。色街のドラッグストアに同系のドリンクがおにぎり感覚で売ってある。この広告に棋士がずらりと並ぶ。和服で腕組みした棋士がラーメン屋よろしく勇ましく立っている。このミスマッチである。棋士という頭脳労働の極地にいるような人間と、パチンコで勝った金でこれからハッスルするぞという中年を応援する精力剤の組み合わせ。棋士って性欲とかあんまり強そうじゃないけど、実は…?みたいな変な想像を刺激する。

阪神電車のって尼崎センタープールへ。大学時代からこれで競艇場に来るのは15年ぶり2度目だ。車中、スポニチを広げるおじん有り。電車でスポーツ紙を読んだら一流である。僕の目指すべき男像はここにある。おじんはニューバランス574のベージュを履いている。調べたら1万以上するじゃないか。今まで万超えのスニーカーなんか買ったことないよ。ユニクロの紺のウルトラライトダウン。高齢者といえばコレといった感じの。あと、あとは何色と言ったらいいのか、僕の20年来の読書歴で鍛えた言語力、森羅万象を包摂する語彙力を持ってしても、「地べたに落ちたミントアイスが乾いたもの」としか言えない色合いの、コーデュロイのスラックスを履いている。

レースが始まってエンジン音がうなる。高速で目の前をボートが飛び去っていく。ボートが水面にはねる音の凄まじさよ。あひるちゃんポチャポチャじゃない。バットで地面を打って回るようなドカドカドコと暴力的に叩きつける音。選手は必死にしがみつく。こんな荒々しい乗り物を乗りこなしているのが全員女子とは。今日は「GⅢオールレディース競走あまがさきピンクルカップ」という女子戦だ。ずっとYouTubeの配信で見ていたが実物は迫力が違う。生で見るとまるで別の競技だ。「差せー」「いけー」とナチュラルに叫ぶ声あり。エンジンがついて高速で走る乗り物って意味では、バイクと似ているし、カッコいい。成績の振るわない新人選手の走行をみる。明らかに乗れていない。加速時のふらつき、上下動のいなし方。新人選手とベテランでは画然たる違いがある。僕みたいなボートレース素人、生で見るのが2回目の人間でも、それぐらい直感できる。そりゃ初心者マークをつけた車と、トラックの運ちゃんでは公道におけるノリが違う。それと一緒のことが水面の上でも起きている。

レースは100円も買ってない。1レースも賭けてない。何をしに競艇場に来たのか。人を見るためである。こんなところに集まって日々金を溶かしている人間を見たいがために来たのである。油染みの浮いたシャカシャカのブルゾンを着たおじん。ニッカポッカのおじん。女性より長い長髪、チェックシャツ、擦り切れたボディバッグ、リアルダメージジーンズ。「うわ」と思うような人、どうしようもない人、ヤレすぎて大丈夫か?と思うような人。くたびれた姿に、負けて酒飲んで明日も同じことするんだろうなってのが透けて見える人。たしかにいる。そういう連中をみて自分はそこまで落ちぶれちゃいないってのを実感するために来た。が、そんなことはどうでもよくなった。みんな他人に無関心だ。誰がどんな格好をして何をしてたって気にしちゃいない。ただ頭のなかには次のレースのことだけがある。夢中になっている。ふだんの生活では、他人に絶対に近づいてほしくないパーソナルな距離がある。レース観戦のとき真横に、肘が触れ合うところまで人に近づかれてもまったく嫌悪感がない。仲間だしどうぞどうぞ、一緒に見ようよという気になる。おれの居場所はここにあった! もう1人で苦しまなくていい。友達がいなくても競艇場があるじゃないか。